動画編集が「できない」のではなく、「時間がかかりすぎる」というのが本当の問題でした。
撮影はできる。素材もある。でも編集に座ると、無音カットだけで30分、テロップ入れで1時間、BGMの調整でまた30分——気づくと半日が溶けています。外注すれば解決できるけど、毎本頼むとコストが積み上がる。
そこで作ったのが、動画編集を9ステップで全自動処理するPythonパイプラインです。名称は内部で「pipeline_v4.py」と呼んでいます。この記事では、そのパイプラインの全体像と、作る過程で詰まったこと、実際に動かしてわかったことを書きます。
なぜ「外注」でも「手動」でもなく「自動化」を選んだか
外注の問題は「コスト」より「往復の手間」
動画編集の外注自体は難しくありません。クラウドソーシングで探せばすぐ見つかる。ただ、問題は金額だけではなくて、「素材を渡して、確認して、修正を依頼して、また確認して」という往復のやりとりに意外と時間がかかることです。
急ぎの動画、数本の短い動画、テスト的に出してみたい動画——こういうものを毎回外注するのは現実的ではありませんでした。
Claude Codeで「作ること自体」をAIに頼った
パイプラインの設計と実装にはClaude Code(AIペアプログラミングツール)を使いました。「無音区間を検出してカットするPythonコードを書いて」「WhisperでテロップをSRTファイルとして生成する処理を追加して」という形で一つひとつ組み立てていきました。
最初から完璧に動くコードは出てきませんが、「このエラーはなぜ起きているか」をClaude Codeに聞きながらデバッグしていく作業は、一人でドキュメントを読み続けるより圧倒的に速い。
9ステップのパイプライン全体像
ステップ1〜3:素材の前処理
ステップ1:無音カット ffmpegを使って、一定デシベル以下の無音区間を自動でカットします。「えー」「あの」の間合いや、収録ミスによる無音部分が消えるだけで、動画の印象がかなり変わります。
ステップ2:ノイズ除去 音声のノイズを除去する処理です。収録環境によってはファン音や環境音が気になる場合があり、ここで軽減します。
ステップ3:音量正規化 全体の音量レベルを統一します。素材ごとに収録レベルがばらつくと、つなぎ目で音量が変わって聴き心地が悪くなるため、ここで均一化しておきます。
ステップ4〜6:テロップと映像の処理
ステップ4:テロップ自動生成(Whisper) OpenAIのWhisperを使って音声を文字起こしし、タイムスタンプつきのSRTファイルを生成します。精度は体感で9割程度。固有名詞や専門用語は誤認識が出るので、後で目視確認が必要です。
ステップ5:テロップのスタイル適用 生成したSRTをもとに、動画へのテロップ合成を行います。フォント・サイズ・位置・背景色などのスタイルはconfig fileで一括管理しているので、毎回設定しなおす必要がありません。
ステップ6:Bロール挿入 あらかじめ用意したBロール素材(補足映像)を、キーワードで自動的に挿入する処理です。「〇〇というキーワードが出たタイミングで、このBロール素材を挿入する」というルールを設定しておきます。完全自動ではなく、ルールを作るのは人間の判断が必要な部分です。
ステップ7〜9:音声演出と最終出力
ステップ7:効果音(SE)の挿入 テロップの表示タイミングに合わせて効果音を入れます。ここも「テロップが出るタイミングにこのSEを鳴らす」というルールで動いています。
ステップ8:BGMの追加と音量調整 BGMファイルを読み込み、音声(ナレーション)との音量バランスを自動で調整しながら合成します。BGMが大きすぎて話し声が聴こえにくくなる問題を、デシベル差の設定で自動制御しています。
ステップ9:Remotionでの最終レンダリング 最終的な映像の組み上げと書き出しにはRemotionを使っています。RemotionはReactベースの動画フレームワークで、テロップのアニメーションや映像トランジションを細かく制御できます。最終レンダリングの出力フォーマット(解像度・ビットレート・コーデック)も設定ファイルで管理しています。
実際に動かしてわかったこと
「9ステップ全部自動」にこだわらないほうがいい
最初は「完全自動」を目指して、人間がタッチするポイントをゼロにしようとしました。でも実際には、テロップの誤認識チェックとBロールのルール設定は人間が判断したほうがいい。完全自動にこだわって精度を下げるより、「ここだけ確認する」というチェックポイントを2〜3か所設けたほうが、完成品のクオリティが安定します。
パイプラインのメンテナンスコストがある
一度作れば永遠に動く、というわけではありません。Whisperのバージョンが上がったり、Remotionのアップデートで動かなくなったりすることがあります。毎日触る前提ではありませんが、ライブラリ更新、テンプレート変更、字幕スタイル変更のタイミングで動作確認する運用は必要です。
ただ、このメンテナンスもClaude Codeに「このエラーが出た、直して」と貼り付ければ大半は対処できます。
一番効果を感じたのは「テロップ入れ」の自動化
9ステップのうち、一番作業量が減ったのはWhisperによるテロップ自動生成です。テロップを手入力していたときと比べると、作業の流れが根本的に変わりました。完全な精度ではないので確認は必要ですが、「ゼロからタイピングする」と「生成されたテキストを確認・修正する」では、体感の負荷がまったく違います。
PROSTでの使いどころ
このパイプラインは、広告用の短尺動画や講座素材の切り出しのように、「毎回同じ作業が発生する動画」に向いています。逆に、演出の自由度が高いブランドムービーや、細かな感情表現が必要な編集を丸ごと任せる用途には向きません。
実務では、AIに任せる工程と人間が見る工程を分けています。無音カット、文字起こし、テロップ生成、BGMの下処理はAIとスクリプトに任せる。固有名詞、言い間違い、強調したい言葉、最終的なテンポは人間が見る。この分担にすると、外注か手作業かの二択ではなくなります。
現時点で公開できる確定数値は置きません。ただ、作業の重心は明らかに変わりました。手入力で編集する時間が減り、生成されたものを確認して整える時間が中心になっています。動画編集を「職人作業」だけで捉えるのではなく、「再利用できる工程の集合」として捉えると、AI化できる部分が見えやすくなります。
まとめ
動画編集の9ステップを自動化するパイプラインを自作して、実際に運用しています。使っている主な技術スタックはffmpeg(音声処理)、Whisper(文字起こし)、Remotion(レンダリング)です。開発にはClaude Codeを使い、一人で設計・実装・デバッグまでやりました。
「全部自動」より「手が必要な部分だけ残す」という設計の考え方が、クオリティと効率のバランスを取る上で重要だと感じています。動画制作を事業に活用しているフリーランスや個人事業主の方には、こういう仕組み作りのアプローチが参考になるかもしれません。
PROSTでは、私が実際に自分の事業で動かしているこうした自動化の取り組みをベースに、個人事業主が事業をAIで効率化するための実践的な仕組みを設計しています。「動画制作やコンテンツ作成を自動化したい」という方は、AI活用相談でご相談ください。